これらの作品は、ビーズでビーズのかたちを作ったものです。少しはなれたときに見
える作品全体のかたちは、そのかたちを作っている小さなビーズ一つ一つのかたちを拡 大したものです。同じやり方をくりかえして、ビーズで作ったビーズのかたちで、もっ
と大きなビーズのかたちを作ることもできます。
すべての芸術作品は、それぞれ、いくつものレベルで複数のかたちを持っています。
絵画ならば、まず筆でのせられた絵の具の小さな盛り上がりのかたち。そして、その絵
の具で描いてある部分部分、たとえば絵のなかの木の一本一本のかたち。さらにそれら
の部分部分があわさって、全体の風景、たとえば森や山のかたち。最後にはその絵のキ
ャンバスの四角いかたち。それらはすべて違うかたちですが、どれ一つ欠いてもその絵
にはなりません。それは彫刻でも同じです。つまり芸術作品は、いろいろなかたちがあ
わさって、一つの作品を成しているのです。しかしその中から一つのかたちを見つけて
、それを見たとき、それ以外のかたちは見えなくなってしまいます。
この作品も、二つのレベルでかたちをもっています。つまり、全体として見える円筒
形のかたちと、それを作っている小さなビーズの円筒形のかたち。この作品でも、その
ふたつのかたちは、やっぱりどちらか片一方しか見えていないはずです。小さなビーズ
のかたちをみている時は、作品全体のかたちは見えないし、作品のかたちを見ていると
きは、小さなビーズはつぶつぶにしかみえない。しかし、やがて私たちはその二つが同
じかたちをしていることに気づきます。つまり、離れたときに見える全体としての円筒
形は、それを形作っている(素材である)ビーズをモデルにしたものなのです。それに
気づいたとき、私たちはどちらか一つのかたちを見ることによって、もう一方のかたち
をも見ている状態におちいります。これをなすために、この作品では、それ以外のかた
ちは追い出されています。つまりビーズが他の何にも(キャンバスや台座に)頼ること
なく、それだけで自分のかたちを作っているのです。
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