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バルザック「知られざる傑作」についてメモ

Last Update : 2003/05/09

バルザック「知られざる傑作」岩波文庫


■ストーリーと概要
 十七世紀末、若き日のニコラ・プッサン達が、謎の老画家フレンホーフェルと出会う。フレンホーフェルは当時としてはやや飛躍した美術理論の五択をならべて、凄腕を魅せては彼らを圧巻させる。そんな彼が技術の粋を賭けてる制作中の作品「美しき諍い女」がどんなに凄い作品なのかと、プッサンは自分の彼女を彼のモデルとして提供することで、フレンホーフェルの作品を見ることになるが、そこにあるのは絵の具で塗り込まれた壁に些細だけど、足と判断できる部分だけがあった。

 この作品は、フレンホーフェルがどんな絵を描いてるか記述で描写されていても実在の人物ではないので何が書かれてるか読者も見ることは出来ないといった文学的題材としても読めますが、優れた近代の絵画や美術の読み方、見方としても的確な、問題提起と描写がされています。

 「美しき諍い女」と言う名前で映画化もされましたが、それはあんまり面白くないので、小説の解釈として映画を見た方が無難です。




■フレンフォーウェルのコメントなど
ドイツの古代巨匠の綿密で沈着なところ、的確でこわばった感じと、イタリアの画家の目もくらむような熱情、胸のすくような豊麗な味のあいだを、宙ぶらりんで迷ったのだ。ハンス・ホルバインチチアノ(ティツアーノ)を、ブレヒト・デューラーパウロ・ヴェロネーゼ(p.149)
抽象表現主義を擁護しつつ、陰でノーマン・ロックウェルを評価する、宙ぶらりんなグリンバーグ。



何がかけているのか。なんでもないものが欠けている。が、このなんでもないものがじつはすべてだ。(p.153)
なんでもない労働者を描くクールベ、なんでもない便器を展示するデュシャン。


この点、彫刻家はわれわれ画家よりよけいに真に近付きうるのだ。自然のなかでは、自然のなかでは、いろんなまるみがそれからとつながっていて、おたがいにすきまなく包に合っている。厳密にいえば、デッサンなんてものは存在しないのさ。(p.162)
線というものは、人間がそれによって物体に落ちる光の効果を説明する手段なんだ。しかし、一切が充実しきってる自然には、線なんぞありはしない。(p.163)
平面に絵を描くこと記述すること説明すること、すなわちデッサン?


光の配分によってはじめて人体にそれらしい形があたえられるのだ。(p.163)



線なんぞ一本だって引いてはいけないのかもしれない。それからまた、人物は中央真っ先に攻撃したほうがいいのかもしれない。(p.163)
確かグリンバーグは、「成功した絵画とは言えないが、伸張され釘や鋲で留められたキャンバスだけでも絵画として成立する」と言っている。その言葉は「線なんぞ...」とあまり変わらない。



老人は突然の変貌によって芸術それ自身となってしまった。(p.163)
大げさに跳躍すればパフォーマンスアート。



デッサンなんてものは存在しないとか、線で書き表すことのできるのは、ただ幾何学的な図形ばかりだとかいい張る。それは現実を超えてる言草だ。なぜなら、線は黒で、---黒はいろじゃないからね。、絵は描けるんだから。つまりそのことは、この絵というものが自然と同じく、無限の要素から成り立っていることを照明するわけさ。すなわちデッサンは骨組みを作り出す。(p.167)
レディメイドとしての画材、レディメイドとしての黒色。
他者としてある画材やモチーフを、どのように自己とし内在化して表すかについて。
「自然を円筒形と球形と円錐形によって扱いなさい。自然は平面よりも深さにおいて存在します。そのため、赤と黄で示される光の震動の中に空気を感じさせる青系統を入れる必要があるのです」セザンヌ


『これなんだ、俺の愛する女は!』と、そう言ってみたまえ、万事おしまいになってしまうから(p.177)
コレクター魂と、情報の共有をすることの矛盾。


ずっとはっきりこの仕事がわかるから。遠くだと、消えてしまうのだよ。ほらそこ!(p.187)
細分化する情報と細分化する選択肢。



■プッサンのコメントなど
「僕はそれを考えたがね、お前を愛してることも愛してるんだ。」(p.173)
「私と、仕事や趣味どちらが大事?」



絵具の壁になっているだけだ。(p.185)
素材の物質性をアートとして表象
例えばルネサンスでいうとこのティツアーノ、セザンヌや印象派、パピエコレ、レディメイド、ポロックや抽象表現主義や、ゴードン・マッタ・クラークなどポストミニマル。




■注訳
フレンフォーウェルの師とかかれたMabuseについて。
http://philatelic-art.com/artist/7114.htm
アントウェルペンで活躍。古典古代やルネサンスを研究するためローマに学んだ「ロマニスト」と呼ばれた画家のひとり。イタリア絵画からは特に裸体の表現と建造物の描写をフランドル絵画にもたらした。対象の細部にまで肉薄する写実が特徴。
p.209にあるとおり、生没年がバルザックのころ誤って知られていたので、史実としてフレンフォーウェルの師には年代的にならない。

Nicolas Poussin
http://www.artcyclopedia.com/artists/poussin_nicolas.html
http://www.kfki.hu/~arthp/html/p/poussin/

Porbus le Jeune


この小説の主人公は移してもって自分であると言う意味を伝えたセザンヌ。

画商ヴォラール(vollard)によって1931?年に刊行されたピカソの挿絵豪華本。
関連→http://web.org.uk/picasso/balzac.html
1996年頃イギリスで復刻したみたい。

ピカソのゲルニカが制作されたパリのグラン・ゾーギュスタン街7番地のアトリエは、劇中の舞台フランソワ・ポルビュスのアトリエがあった場所となっている。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/1937/madrid/v-arte1.htm

「美しき諍い女」監督ジャック・リヴェット 1991年仏


■参考文献
武蔵野美術:特集「デッサン」-「デッサン-ボードレールの徴のもとに/松浦寿夫」1997 MB-106
google/知られざる傑作 バルザック

  
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