青山真治の大作。
ユリイカとは「アルキメデスが王冠の金の純度を測る方法を考えついた時に発した叫び.」一般的に「わかった」 「しめた」を意味する。ジム・オルークの曲名。
(ストーリー)
ある九州の地方都市、バスの運転手・沢井(役所広司)はバスジャック事件の現場に偶然居合わせ、危うく命を落としかける。沢井の他に生き残ったのは中学生の兄・直樹(宮崎将)と小学生の妹・梢(宮崎あおい)のふたりだけであった。
事件によって大きなダメージを受けた3人。しかし、彼らの心にそれ以上に深い傷を負わせたのは、マスコミや周囲の好奇に満ちた視線だった。沢井は家族を捨て消息を絶ち、兄妹は自分たちの殻に閉じこもることで自らを守ろうとした。
それから2年が過ぎ、事件の影響から兄妹の家庭は崩壊、直樹と梢は二人きりで生活していた。ちょうどその頃、沢井が街に戻ったのと時を同じくして、周辺で連続殺人事件が発生。沢井はまたも周囲から 疑いの目を向けられる。癒えない傷に苦しむ沢井。 やがて沢井は兄妹が二人で生活しているのを知ると、彼らの家を訪ね共に暮らし始める。
そこに兄妹の様子を見にきた、従兄の秋彦(斉藤陽一郎)が加わり、4人の奇妙な生活が始まる。
依然として沢井の殺人の疑念が消えない中、彼と関係を持った女性がその翌朝、死体で発見されたことで、いよいよ警察の追及は本格化していく。アリバイが立証され釈放された沢井は、兄妹と街を出るためにバスを手に入れ、警察の牽制も黙殺し、秋彦も含めた4人で街を発つのだが……。
沢井真:役所広司
田村梢:宮崎あおい
田村直樹:宮崎 将
秋彦:斉藤陽一郎
弓子:国生さゆり
シゲオ:光石 研
犯人:利重 剛
松岡:松重 豊
田村美都:真行寺君枝
美喜子:尾野真千子
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印象深いシーンを幾つか(ネタばれ注意)
・十文字駅駐車場にて、警察に殺されるか出頭するか迷うバスジャックの犯人と、運転手の怯えた沢井が背を向けるシーン
・妹を殺すか、出頭するか問いつめられる連続殺人の犯人直樹と、沢井が背を向けて自転車に乗るシーン
・独房にて沢井が誰かしれぬ隣人から「コツコツ」と叩かれ叩き返すシーン
・バス車内にて沢井が「コツコツ」と壁を叩くと、梢が「コツコツ」、直樹が「コツコツ」と叩かれ叩き返すシーン。そして気付かない秋彦。
青山真治の映画ではいつも何処かに記号として対応するシーンが幾つもある、それが今までと「わかるけど鼻につく」言うか、どこかくすぐったい感じが気になっていたのだか今回をそれが自然と演出、脚本されているようでより感情移入できるというかより「映画」より「物語」に移入できるようになったことが、作品の質をより高いものにしている。また、秋彦はポラロイドを取りまくっていたが、未確認だが以前の青山の「冷たい血」にて俳優の斉藤陽一郎はポラロイドを取りまくるシーンがあったような気がする。
・バスから大きいマシュマロのような藁が見えるシーン
僕はそのようなものを見たことがないのでどうもウソ臭い特撮のように見えて映画をより映画らしく感じさせられた。
・梢が各々の名を付けた貝殻を阿蘇山山頂から投げ捨てその身も落とすようで落とさない。沢井は咳き込み血を吐き、二人がバスに乗り込み山頂を離れる。また同時に、カメラが「クロマテイックB&W」と称される独特の色からカラーに、カメラが地上の視線から空からの視線へ変わり、はじめて映画のタイトル「EUREIKA」が出てくるシーン。
このシーンは、一つ聖書や比較民俗学にある、楽園の追放を表しているように思える。何か得て自立する自由をえると同時に何かを失う。ここで沢井たちが獲たことは「生きろとは言わない、ただ死なんといてくれ」ってことを確信したことでなかったのでは無いかと思う、失った事は梢は家族、沢井は殺意から来るトラウマとしての咳き込みで体調を崩すことだったのではなかったか?と思う。またカメラ撮影の変化はいわゆる今まで渾沌とした殺意も自殺も混沌とした「楽園」の世界にいる世界から、失楽園として山頂を離れるように視座が神が地上を見下ろすように変化したのではなかったかと思う。それに気付くと秋彦の視座は天使又は使徒、梢の両親や沢井に気を寄せるシゲオの同僚は神の視座を持っていたのではないかと思うのだが。
また最後にやっとでる映画タイトルは映画が終わることで、活き活きとした人間物語の始まりを表してるように見えた。(2001/02/06)